茅野市文化芸術推進事業レポート
芸術×文化×くらし
地域そのものが
ミュージアム!
レポート

ちの ミュージアム・ピクニック

ピクニック4
凍みる冬に生きる工夫
2020.2.22
厳しい寒さが生んだ伝統の文化
ピクニックルート

❶茅野市美術館→❶八ヶ岳総合博物館→❷笹原地区(郷土料理体験)→❸泉野の「穴倉」→❹茅野市民館(信州のこぎり職人のお話を聞く)

コンセプト

市全域が標高700mを超える茅野。氷点下15度を下回ることもあり、土の深くまで凍りつく「凍みる」冬。厳しい季節ですが、実は冬にこそ「茅野ならでは」があふれています。寒さと乾燥という気候を活かしてつくる冬の保存食、「凍み」の食材。農作業ができない冬の時期の手仕事として発展した、のこぎりや寒天などの伝統産業。そして農家の人たちが真冬にわら作業をするために共同で建てた「穴倉」。茅野に住む人たちは、さまざまな知恵と工夫で、この厳しい冬を乗り越えてきたのです。先人の知恵と努力に感動する旅。

レポート
1. 茅野市美術館

ピクニックのスタートは、茅野市美術館で芸術にふれるところから。茅野市に縁のある芸術家の方々の作品を集めた企画展示を、学芸員さんの解説で鑑賞します。やはり、山を描いた絵が多く、八ヶ岳が多くの人たちに愛されていることが伝わってきます。

2. 八ヶ岳総合博物館

次に向かったのは、八ヶ岳総合博物館。普段何気なく見過ごしてしまいそうな「歴史・文化」のコーナーにも、茅野市ならではの「冬の寒さに対する知恵」が詰まっています。展示されているのは「信州のこぎり」と「寒天」の製造設備の模型。かつて茅野市を含む諏訪地域一帯では、のこぎりと寒天の生産が大変さかんでした。 「のこぎり? 寒天? 茅野とどう関係あるの?」と思いますよね。実は最初はどちらも「畑仕事ができない冬の時期の農家の副業」としてはじまったそうです。茅野の長い長い冬と、諏訪地域の人特有の諦めずにこだわる性格が、こうした仕事によくマッチしていたため、茅野産ののこぎりや寒天は、その品質の良さで全国的に有名になったのです。

3. 笹原地区

バスはずっと山道を上がり、標高1,100mの山里、笹原地区へ。2月の笹原は本当に骨の髄まで凍みます。そこで、なにをするのかというと……

なんとびっくり、お料理教室がはじまりました。みなさん、童心に戻って楽しそうですね。 もちろん、単なるお料理教室ではありません。笹原地区のおばあちゃんたちが教えてくれるのは、茅野でずっとつくられてきた冬の保存食などを使った郷土料理です。

こちらがその素材たち。ざるにのっているのが寒さと乾燥を活かしてつくった「凍み」の保存食で、凍み豆腐、凍み大根、そして寒天です。右下の黒っぽいのは、笹原で長年つくられている「あぶらえ(えごま)」。ここ笹原では、あぶらえをすりつぶしたほんのり甘いソースをお餅にまぶして食べる「あぶらえもち」が定番料理。

あっという間に、見るからに美味しそうな料理がこんなにできました。 田畑が深く凍りついてしまう茅野では、冬には作物をとることができません。どうしても食材のない冬に冠婚葬祭があると、庭の池を泳いでいる鯉を締めてお客さんにお出しした、という話まである笹原。冬になる前に仕込み、冬の間中に少しずつ食べる保存食や日持ちのするあぶらえなどは、欠かすことのできない生活の知恵だったのです。

4. 泉野の「穴倉」

次はちょっと驚くような場所です。この茅葺き屋根の竪穴式住居みたいな建物はなんでしょう……? じつはこれ、農家の人たちが冬の間に手仕事をするために共同で使っていた作業所を、復元したものなんです。 農家のみなさんはここで集まってわら細工をしたりして、長い冬を乗り越えたんですね。ひとりよりみんなの方が、寒くない。

中に入らせていただくと、なんとこの「穴倉」、今も現役でした。中央の囲炉裏には火がくべられ、村の人たちが周りを囲んでいます。

今でも新しい人が来ると、村のおじいちゃんが気軽にわらじづくりを教えてくれます。こうしたつながりが今も続いているの、貴重ですよね。。

5. 茅野市民館(信州のこぎり職人のお話を聞く)

スペシャルな体験続きの旅の終わりには、もうひとつスペシャルな体験がありました。中央でみなさんの注目を集めているのは、「茅野市最後の信州のこぎり職人」である、両角金福(もろずみかねひろ)さん。たくさんいた信州のこぎりの職人も、大量生産品の勢いに押されて徐々に少なくなり、今や茅野に残るのは金福さんを入れて二人だけ。そうした中でも手作業ののこぎり作りをやり続けるのは「あなたののこぎりを使いたい、と言ってくれるお客様がいるから」。 そんな職人の鑑のような金福さんが、のこぎりの解説をしつつ、のこぎりの小さな刃ひとつひとつにヤスリをかけて切れるようにする「歯入れ」の作業を実践してくださいます。 みんなが息をのむ中、ザッザッと、ヤスリが金属を削るリズミカルな音が響きます。金福さんがやると簡単なようにも見えますが、のこぎりの切れ味を決める大切な工程。熟練の職人だからこその、匠の技でした。

実は諏訪大社の神器「薙鎌」の製作も手がけている金福さん。今後も長く製作が続けられるよう、後進の育成にも携わっているそうです。

参加者より

「笹原の人たちの地元を活気づける活動が、すばらしいと思う」

「子どもたちに伝えていきたい、伝えていかなければ知らずにすんでしまうと感じています」

「昔の暮らしも今に充分通用すると感じます。人とのつながりがあって良いですね」

「まさにテーマ通り、凍みる冬に生きる工夫について沢山知ることができて良かったです」

「マップにはのっていない場所の見学、貴重でした」

「どれもここにしかない体験、見学でよかったです。県内でも、違うなぁと改めて感じました。寒さが違いますよね。自分の地域を想うきっかけになりました」

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